コンビニ行ったら泉修一がいた話
不快感っていうのは磁石みたいな性質を持ってる
ほんのちょっと睡眠の質が良くなかったとか、そんな些細な噛み合わせの悪さがトリガーとなって、小さな苛立ちに別の苛立ちが寄せ集まってしまった暁にはもう大変
森羅万象がストレスで出来上がってるんじゃないかって程に、全てが苛立たしくなる
車線を守らない自転車
クチャクチャと音を立てて食べるヤンキー
全く学習しない自動変換機能
たった一度、そんな理不尽に対して怒り、反応しようものならば待ってましたとばかりに悪意の連鎖が雪崩れ込んでくる
だから理性を外してしまわぬよう、ついつい己に余計な緊張を強いてしまう
これが続くと、短気になってくる、人は
冷たい焦燥にジワジワ胸を焼かれているから、無駄を許せなくなってくるし理不尽なことに対して怒りを抑えられなくなってくる
理性を強いれば強いるほど、人は理性から程遠い状態に陥ってしまう
そんな状態に僕もここ数日陥ってしまって、疲れておりました
どうしたらいいのだろうか? 負の坩堝(るつぼ)からどうしたら抜けだせるのだろうか?
音楽聞いてもダメ
暴飲暴食を繰り返してもダメ
運動してもダメ
そんなときコンビニに入ってしまう
甘いスイーツだったり、ビターコーヒーといった刺激物だったり、コッテリ油に塗れた揚げ物だったり
数分後にはそれらを持って店前の駐車場でモグモグ食べる
これは食事なんかじゃない
綺麗にパッケージされた包装を無造作に破り捨て
洒落の効いた盛り付けをグチャグチャにかき混ぜ
咀嚼も程々にして胃液で溶かす
これは言ってしまえば、破壊だ
綺麗な店内を漁り尽くして、欲望のままに散らかしたい衝動
この3日ほど、僕はゴジラになっていた
そして、今日もまたコンビニに上陸した
やはり買いたいものはない
だけど今日は綺麗なビスケットをバリバリに噛み砕いてやりたい気分だったので、それを持ってレジへと向かった
全てを効率的に済ませたいのでセルフレジでチャチャっと済ませたかったのだが、あいにく現金しか持っていなかった
仕方がなく、向こうを向いて店の奥で洗い物をしている店員へと声をかけた
「すいませーん、レジお願いします」
振り向いたその店員の顔を見てギョッとした
松尾諭ソックリだった
不勉強なもので、そのときはパッと名前が思いつかなかったのだけれど、彼が出演し演じている作品を一つ思い出すことができた
「泉じゃん」
2016年の大ヒット映画「シン・ゴジラ」には”泉修一“という名の官僚が出てくるのだけれど、彼はどんな状況にあっても冷静さを保ち主人公である“矢口蘭堂”をサポートする
泉がスクリーンに現れるだけでゴジラの圧倒的絶望感に心折れそうになっても「まだ出来ることはあるはずだ」と、底無しの理性が湧いてくる
泉はそういうシンゴジラにおける”オアシス““奇跡の一本松”みたいな存在だ
その店員さんの顔がニヤリと笑みを浮かべただけで、自分が「ヤシオリ作戦」を完遂しようともがく蘭堂なのではないか、そんな気分になってきた
さっきまで気分はゴジラだったのに
「まずは君が落ち着け」
彼の顔を見ていたら一瞬だけ、そう叱咤激励されたかと思った
念のため聞き返してみたら「ポイントカードお持ちですか」と言っているだけだった
カゴに入ったビスケット箱に視線を移した
箱の上に矢口蘭堂が立っていた
私がゴジラを止める!!
祈る様な目でゴジラの虚な瞳に睨みをきかせている
ゴジラはこう言った
「すいません、商品変えてもいいですか?」
ビスケットをもとの商品棚に戻して、そして一本のミネラルウォーターを手にした
〜〜〜
会計を済ませたあと、店の前で500mlを一気に飲んだ
不思議なもので、透明な水が喉を下るたびに胸がスーッと軽くなって、頭も軽やかになるのを感じた
そして、気がついた
「そうか、冷えてないんだ」
ここ数日ろくに水分取ってなかった
こうしてゴジラは活動を止めた
冷却剤が効いたのだ
好きにできないこの社会ですが、水をちゃんと飲みましょう